2020年1月24日
学力向上推進委員会 委員長様
委 員様
全国学力・学習状況調査と学力問題に関する意見書
愛知県教職員労働組合協議会
議長 岩 澤 弘 之
全国学力・学習状況調査(以下、「全国学力テスト」とします)に関わって、愛知県の教育についての論議を進めていただきありがとうございます。
今回の意見書では、今年度の中学校英語調査を検討することを手がかりにして、全国学力テストの問題点を指摘するとともに、学校教育にとって何が必要なのかをまとめてみました。中身は、現場の子どもたちや教職員の願いを反映したものです。ぜひ、内容をよく吟味していただき、貴委員会での論議に生かしていただきたいと願っております。
記
Ⅰ 英語調査による最大の被害者は生徒
今年度初めて実施された中学校英語調査、とくに「話すこと」調査では問題点が続出しました。パソコンが対応しないため実施できない学校があったり、準備や処理のために膨大な時間を費やしたり、苦労して実施したものの「解答の公平性」が担保されない結果となったりしました。いずれにしても、昨年度の予備調査で指摘されていたことばかりであり、本調査を実施してはならなかったのです。
英語調査の実施は、現場の混乱と多忙化を招いただけではありません。調査を受けた生徒に次のような影響を及ぼしたことが想像されます。
ア 「話すこと」調査では、音声データの欠損などにより、1,658校の15,298人に成績が提供されないという事態となりました。貴重な授業時間を使い、真剣に取り組んだのに、その結果が返ってこなかったのです。該当の生徒は、「私だけ成績が返ってこなかった」と、その心が傷つけられたのではないでしょうか。
イ 一方、「話すこと」調査の成績が返ってきた生徒にとってはどうだったのでしょうか。結果は、5問中の1問正解(100点満点に換算すると20点)が35%弱、0問(0点)は23%弱でした。この2つを合わせると、全体の半分以上が20点以下でした。しかも、4人に1人が0点だったのです。「話すこと」調査によって英語に対する苦手意識を強めることにつながったのではないでしょうか。
ウ また、「話すこと」調査以外でも、きわめて難しい問題がありました。「聞くこと」調査では正答率が8.5%、「読むこと」調査では11.6%、「書くこと」調査ではわずか1.9%というように、正答率がきわめて低い問題がいくつかありました。このような正答率の極端に低い問題は、学力を把握するのに役立たないだけにとどまらず、生徒の英語に対する学習意欲を減退することにつながったのではないでしょうか。
以上のように、英語調査は、生徒の心を傷つけたり、その学習意欲を減退させたりする事態を招きました。英語調査による最大の被害者は生徒であったと考えられます。
Ⅱ 「楽しい授業」「分かる授業」を
では、小学5・6年で「外国語活動」、中学1・2年で「英語科」を学習してきた中学3年生の英語教育に関する意識はどうなっているのか、生徒質問紙の結果から見てみまししょう。
生徒の回答は、「英語は将来、社会に出たとき役に立つと思いますか」「大切だと思いますか」に対して、「そう思う」「どちらかというとそう思う」が、どちらとも85%を超えています。
「英語で学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つと思いますか」
そう思う(61.3%) どちらかというとそう思う(24.4%)
どちらかというとそう思わない(9.0%) そう思わない(5.1%)
「英語の勉強は大切だと思いますか」
そう思う(59.5%) どちらかというとそう思う(26.1%)
どちらかというとそう思わない(9.1%) そう思わない(5.2%)
ところが、「英語の授業はよく分かりますか」に対して、「そうは思わない」「どちらかというとそうは思わない」が30%を超えています。「英語の勉強は好きですか」に対しては、「そうは思わない」「どちらかというとそうは思わない」が40%を超えています。ここからは、授業が分からず、その結果英語が好きになれないという実態が浮き彫りとなっています。
「英語の授業はよく分かりますか」
そう思う(29.9%) どちらかというとそう思う(36.5%)
どちらかというとそう思わない(22.2%) そう思わない(11.3%)
「英語の勉強は好きですか」
そう思う(29.2%) どちらかというとそう思う(27.1%)
どちらかというとそう思わない(24.0%) そう思わない(19.7%)
このような実態に対して、「児童生徒の『分かるようになりたい』『できるようになりたい』という思いに応えるため、・・・楽しい授業、分かる授業、できる授業づくりを目指したい。」(平成25年度全国学力・学習状況調査 学力・学習状況充実プラン、愛知県教育委員会義務教育課 平成26年2月)という提案が、今こそ求められているのではないでしょうか。
「楽しい授業」「分かる授業」を実施するためには、まずは教職員の定数改善をして多忙化解消を図ったり、すべての学年で少人数学級を実現したりすることが必要だと考えますが、いかがでしょうか。
Ⅲ 改訂学習指導要領の抜本的見直しを
文部科学省は、学習指導要領を改訂し、英語教育の強化・早期化を進めようとしています。
小学校では、来年度から実施される改訂学習指導要領により、5・6年で英語が正式教科となります。600語から700語の英単語を習得しなければなりません。これ以外にも慣用句や過去形の文など非常に難しい内容まで扱います。教員はとても週2時間の授業で教えきることはできないと考えられます。教員からはすでに「英語に関心を持たない児童が増えた」「英語嫌いが増えた」という声が聞かれています。
再来年度から本格実施される中学校ではどうでしょうか。現行は、1200語の英単語を学習しています。それが、改訂学習指導要領では、1600語から1800語を学習することになります。高校で学習している現在完了進行形や仮定法も入ってきます。また、高校と同じように授業は英語で行うことを基本とする、とされています。英語科教員からは、「現行学習指導要領で学習内容が増え、『できる子』と『できない子』の格差が大きくなった。前の学習指導要領の学習内容にしてほしい。」「改訂学習指導要領が実施されると授業が成立しなくなる」という声が聞かれます
改訂学習指導要領を抜本的に見直すことが必要であると考えますが、いかがでしょうか。
以上