10月25日 内田愛教労議長が教育評価制度調査研究会議で意見表明
失礼します。私は、愛知県教職員労働組合、略称愛教労の議長の内田です。本日は、私どもが7月の要求書で要望した意見表明の機会を実現させていただき誠にありがとうございます。
さて、愛知県は文部科学省の意向を受け、検討会議が設置され、具体的検討が進んでいます。
しかるに、同省の指示では、既に出口が示されており、その方向にしか検討がされないとすれば、これまで、学校で築かれてきた協力・共同による教育実践に大きな影を落とすことが懸念されます。文部科学省の企図する「評価」は、教員個々の「実績」や「業績」を基に人事・処遇に結びつける「査定」あり、公務員制度改革と軌を一にした、教職員の管理統制と賃金抑制の一端を担うものでしかありません。教員の力量向上に役立つ「教員評価」というなら、教育行政が管理職を通して行うのではなく、子ども、保護者、同僚、専門家などの関与のもとで、教員が納得し、教員の努力を励ます、教育活動への丁寧な「評価」であるべきです。文科省にとらわれない愛知県の委員の皆様の賢明な自主的判断を期待するものです。
既にいくつかの都府県で「新しい教員評価」が導入されていますが、それによって教育実践が高まったという報告はありません。むしろ、校長からの上意下達の「指示命令」で教員個々の実践の範囲が狭まっているという報告があり、協力・共同によって行われるべき学校教育が、「新しい教員評価」による教員の連携の「分断」によって、本来保障すべき児童・生徒の全人格的発達に十分に機能できていない、というのが現状です。
愛教労は、愛知県で今、検討されている「教員評価制度」は、成果主義的・管理主義的な評価・処遇制度に道を開くもので断固反対します。
愛教労は、「教員評価」制度を先行的に実施している県の調査を行いました。その結果、この制度がどの都府県においても教育にきわめて否定的な影響を及ぼし、管理職を含め多くの教員を苦しめるものになっていることが明らかになりました。
「人事考課」制度に基づく差別待遇の東京都
東京都では全国に先駆けて、また公務員制度改革を待たずして「教員評価」を人事や処遇に結び付ける「人事考課」制度を導入しました。「教員の評価」を特別昇給、一時金の成績率、人事異動、研修、退職時の再雇用制度、及び定期昇給の「査定」などに使っています。特別昇給は、S・Aのランクの教職員が独占し、人事異動もS教員優遇、C・D教員排除がベースで行われようになりました。研修もランク別におこなわれ、退職時の再雇用もその選考基準に「教員の評価」が持ち込まれています。2005年度からは定期昇給にも格差がつくられ、C・Dランクの教育職定期昇給が3ヶ月延伸され生涯復元されることはありません。一時金の差別支給は現段階では管理職だけに適用され、上位と下位では数十万円の格差がつけられていると言われていますが、これも、今後、一般教職員に広げられる危険性が大きいと言わざるを得ない状況です。
こうした制度が強権的に職場に持ち込まれた結果、「早期退職を考えたことがある」と答える教職員が8割にのぼるようになり、理由として「多忙でゆとりがない」「管理強化で自主性や創造性が奪われている」「めまぐるしい『教育改革』についていけない」などがあげられています。「管理されることは楽なこと。自分の持ち場だけに目を配り、学校全体の動きも知らされないし、知る必要もなくなる」「経過ではなく結果だけが知らされる」「同じ学校教職員なのに、無責任な発言や『評論家』口調が増えていく」など、職場の混迷と退廃は深まるばかりです。
管理職にすら拒否された大阪府の制度
2004年度から本格実施した大阪では、先立つ2003年、1年間の試行結果について、府教育委員会が「アンケート結果」という形でまとめました。きわめて恣意的な設問であったにもかかわらず、例えば「『教職員評価・育成システム』は役立つシステムだと思いますか」との問に「役立つ」との回答は、13.3%にすぎず、「役に立たない」が47.7%の結果になりました。管理職に対する同様の質問でも「役に立つ」との回答は3分の1しかいないという結果が公表され、管理職にすら拒否された制度と話題を呼びました。
「5段階総合評価」は導入しない長野県
2003年度の試行の後に宮城県教職員労働組合がおこなったアンケートでは「新しい教員評価制度」導入に「賛成」が3.9%、「反対」が67.1%との結果になり、また長野県高等学校教職員組合(長野県高教組)が昨年行った「緊急」投票では、「校長が客観的で公正な評価ができるか」との問いに「できる」1.3%「できない」86.7%など、「教員の評価」制度を指示しない回答がどの県でも圧倒的多数にのぼっています。
愛知県においても昨年度8校の研究指定校でのアンケート結果をみても、「教員評価システムの効果は」などとする設問に対しても「あまり役に立たないと思う」が56%であり、「学校の活性化に役立つと思う」については、14.2%しかないという圧倒的に制度への賛成はないという現状を検討会議のみなさんは、しっかり捉えていただきたいと考えます。
愛知県と同様、長野県でも教育委員会が「教員評価検討委員会」を設置していますが、今愛知県で、検討している総合評価については、今年1月、「5段階でランク付けする教育の評価システムはつくらない」との方向で意見をとりまとめました。学校に与える影響を考えるなら当然のこととはいえ、長野県のその冷静で責任ある判断は、検討委員会としての良心を表明したものではないでしょうか。
日本の「教員評価」制度を厳しく批判するILOユネスコ勧告
委員のみなさん、世界的にみても、このような教職員の管理統制を第一義的な目的とする評価制度は、諸外国ではすでに存在しません。ILOユネスコ共同専門家委員会は、日本の「教員評価制度」それと対をなす「指導力不足教員」制度について「教員団体との十分な協議の過程を欠いていた」「主観的評価が行われることが明らか」「公開制と透明性が欠如している」「不服申立の明確な権利が全く存在しない」など国際基準から見て不十分であり、「ILO・ユネスコの『教員の地位勧告』に抵触する」というきわめて厳しい内容の「勧告」を行いました(2003年11月)文科省・県教委は、このように国際基準に達しないどころか非難の対象ともなるような制度を、学校に一方的に持ち込もうとしているのです。
また、教職員を5段階に評価・選別し、「定期昇給」ではなく、「査定昇級」の賃金体系に変える、この原型である民間企業の「成果主義」賃金体系は労働者の競い合いによって、「成功は教えない」「失敗は隠す」「長い期間必要な高い目標には、挑戦しない」等労働意欲の著しい低下を招き、企業の慢性的な営業不振を作り出して、このシステムの破綻が明らかになっています。
「教員評価」制度導入に広がる懸念と不安
委員の皆様、「教員評価」制度導入は教育活動のカナメとも言える集団的・協同的な営みを壊すものとなりかねません。
今全国各地で、「教員評価」制度に対する懸念や不安が広がっています。その特徴のひとつは、本来、数値や「効果」といった表面的な目標とはもっとも距離がある人間的な営みである教育の場で、「成果」を出すために目に見えやすい進学実績や部活動の成績などに目標が移り、子どものたちの人間としての成長よりも子どもたちを「成果」をあげる手段として見る「実績主義」がはびこり、教育の営みがゆがめられるのではないかという懸念です。
第2に教育とはそもそも集団的、協同的なとりくみであるはずです。しかし教員が競争させられることによって、自分が評価される所だけに力を注ぎ、評価の対象とならない目に見えない所、例えば子どもたちの成長を陰で支えたり、同僚への気配りや助け合いの精神、協力・共同しながら実践を積み上げていくといった気風が学校から失われていくのではないかという懸念です。
第3に、教員の評価はどうしても不透明、主観的にならざるをえません。教職員にとって、最も話をする機会の少ない、2年ないし3年で異動する管理職が、トップダウンで経営目標を押し付けて評価することに対する不安です。この制度は子どもたちや学校にとっては「百害あって一利なし」の制度ではないでしょうか。
健やかな成長・発達をもとめる子どもたちは、教職員の協力・共同から
委員の皆様、私たちは教職員は、様々な立場から子どもたちに直接かかわりあってみんなで協力し合い合意を作り出して活動しています。私たちはこうした教育活動の到達点を職員会議等で確認し、生徒の成長をうながす道筋を決めて、みんなで実践しています。授業や担任業務で子どもたちの意見を最大限生かすこと、生徒指導や学年会などで意思統一をはかることなど、校務分掌、部活動、進路指導会議で、自己反省や相互批判などを通じ、日常的に教育活動への評価を積み重ね、年度末反省では、学校としての教育活動を評価しています。
子どもたちの成長にフィードバックされる、こうした教育活動の評価をすすめることによって、私たちの専門性は高められ、同僚性が豊かに発揮されることにつながります。集団的な教育力が高まることによってこそ、子どもたちや保護者の願いに応えられるのではないでしょうか。
県教委や管理職が一人ひとりの教職員を「査定する」評価制度は、こうした教職員の集団的教育力の発揮をむしろ妨げるものでしかありません。
2006年からの「教員評価」制度全面実施は許さない
委員の皆様、最後に私たちは次のことを述べて意見表明を終わりたいと思います。
文部科学省の「教員評価」システム検討の意向を受け「教員の評価に関する検討会議」が設置され、既に8回の議論が行われています。しかし、委員会にはわずか4人の学校長が現場代表として参加しているに過ぎず、「評価される側」である圧倒的多数の一般の教員の代表が参加していないために、学校現場の状況を正確に反映した議論になっていません。 私たちは、子どもと教育をめぐる状況、学校現場の課題、父母、県民の願いが正確に把握され、共通の認識に基づいて丁寧に議論がすすめられることが重要であると考え、委員会で教職員組合が意見を述べる機会を保障すること等を要求してきました。(別紙要求書) 今回実現できたことはそれなりの評価をするものでありますが、たった一回のみのしかも5分程度の意見表明で、制度の導入を強行しようとすることは現場実態を十分にふまえたものといえないと言わざるを得ません。高校の意見表明も一回のみであり、昨年度の一部高校での試行結果アンケートをふまえた会議の形跡はありません。「評価される側」である一般教員の意見を十分に、丁寧に聴き取ることなく、全く客観性のなく意味のない総合評価等の検討を急ぐ事務局の姿勢が厳しく問われています。
また、本県に先駆けて「教員評価」を実施している都府県の状況についても、制度の概要のみの説明に終始し、制度導入後の学校現場の状況を各委員が把握できる資料の提示がないまま議論が行われていると言わざるを得ません。
今後もし、こうした状況にもかかわらず2006年2月の検討会議をもって、検討会議終了とし、まとめ報告を行い、制度の強行導入を実施することは、あまりに拙速といういう誹りをまぬがれません。現在は、一部の学校での試行が終了した段階であり、その中間のまとめもありません。
来年度の制度強行導入は、私たちは断固認めるわけにはいきません。先に要求した事項と併せて以下の点について早急の対応を求めるものです。
記
1 一部の学校での教員評価の試行が終了したことを理由に来年度の制度全面導入を強行 しないこと。
2 現在の「教員評価制度」試行校の結果をふまえて、教職員労働組合の代表も委員に加え再度議論をすること。もしくは、教職員労働組合の代表と検討会議委員と懇談する機 会を保障すること。
3 検討委員が学校現場の状況をつぶさに把握した上で議論ができるように、学校訪問を行うことや現場の教職員との懇談の機会を保障すること。
4 教員が納得し、教員の努力を励ます、丁寧な評価につながらない、「5段階の総合評価」の導入は長野県を見習い絶対にしないこと。
委員の皆様の今後の真摯な論議と、賢明な判断を信頼するとともに、この「教員評価」制度導入の是非を入り口に「学びと成長」の場としての学校の未来について幅広い論議が行われることを心から願うものです。ご静聴ありがとうございました。